金沢大学脳神経内科

年報

第18号(2018年3月)

教室年報・巻頭言

年報第18号の刊行にあたって

2017年(平成29年)の当教室の診療、教育、研究活動の記録を年報第18号としてまとめました。学内、関連施設、国内外の方々から数多くのご支援、ご指導をいただきました。心より感謝申し上げます。

 2017年、世界をみると、米国ではドナルド・トランプ氏が1月に大統領に就任し、米国の国益を徹底的に追求する「America First」を旗印に、オバマ前大統領が進めた国際協調の流れを次々覆し、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱や、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱などを表明しました。北朝鮮は核実験と弾道ミサイル発射実験を繰り返し、ミサイルは米国本土にも到達可能なレベルに達し、朝鮮半島情勢の緊張が高まりました。2月には、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏が、マレーシアのクアラルンプール国際空港で神経毒VXを用いて殺害され、北朝鮮による犯行が強く疑われました。
 国内では、天皇陛下の退位を実現するための特例法が成立しました。政府は退位日を2019年(平成31年)4月30日とし、翌5月1日に新天皇が即位され新しい元号となることを決定しました。安倍政権は最近ではめずらしく長期政権になっていますが、学校法人「森友学園」や「加計学園」を巡る問題で内閣支持率が低下しました。神奈川県座間市のアパートの一室から、切断された計9人の遺体が発見され、部屋の住人が逮捕されました。被害者は女子高校生を含む若い男女で、ツイッターで自殺志願者を探し「自殺を手伝う」と自宅に誘って殺害したとみられており、昨年の相模原事件に続いて、かつては考えられなかったような犯罪が起こるようになりました。
 明るい話題としては、中学生でプロ入りした将棋の最年少棋士藤井聡太四段がデビュー以来公式戦29連勝の新記録を6月に樹立しました。また、6月に上野動物園でジャイアントパンダの赤ちゃん「シャンシャン(香香)」が誕生しました。 1972年、私が高校生の頃、初めてわが国に「ランラン(蘭蘭)」と「カンカン(康康)」の2頭のパンダが来た時に、上野動物園の周りをぐるりと囲む長蛇の行列に並んで見に行きました。今回は、12月から1日400組限定(抽選)で公開が始まりましたが、あまりに高い競争率(数百倍)であっけなく落選しました。

 医療面の話題の1つは新しい専門医制度です。2017年4月から新専門医制度がスタートする予定でしたが、日本専門医機構は開始時期を1年後の2018年4月に延期しました。神経内科専門医は、これまでは、内科認定医の2階に乗っているサブスペシャルティでしたが、今後は内科認定医がなくなり新内科専門医のみになるため、従来と較べて長期に渡る多数例を含む内科研修が求められるようになります。
 このたびの専門医制度の再整備をきっかけに、日本神経学会は「神経内科専門医のあり方」について検討してきました。その結果、神経内科は専門医制度における基本領域化をめざすこととなりました。これは、脳神経疾患診療において神経内科のカウンターパートである脳神経外科や精神科の専門医が基本領域であるため、認知症、脳卒中など脳神経関連の専門科が協力して診療に当たらなければならない重要な領域において、不都合な「ねじれ」現象が生じていることなどが理由です。神経内科専門医の基本領域化は、神経内科が内科から独立し一方的に基本領域化を進めるというものではなく、日本専門医機構、日本内科学会ほかと十分話し合い、理解を得た上で実現しようとするものです。

 当教室では、2017年11月24日〜26日、石川県立音楽堂・ANAクラウンプラザホテル金沢にて第36回日本認知症学会学術集会(会長:山田正仁)を開催いたしました。認知症学会は、科学的根拠に基づく認知症診療・予防等を実践し認知症を克服するために、さまざまな専門家や研究者が一堂に会する場です。本学会としては過去最高の3,530名の参加者がありました。運営にあたり、多くの関係者のすばらしいチームワークに感謝いたします。
 メインテーマとして「認知症を診る、治す、防ぐ:地域から研究へ、研究から地域へ」を掲げました。地域や臨床の現場における認知症の問題、認知症の基礎研究、新しい診断・治療法の開発、地域における認知症予防、専門家の育成などの課題について発表や討論が行われました。一般演題以外のプログラムとして、プレナリーレクチャー、学術教育講演、外国人演者をお招きしたシンポジウム、NeuroCPC、多職種連携ワークショップ、ホットトピック徹底討論など40あまりの企画をもちました。また、私がプロジェクトリーダーを務める文部科学省の事業「北陸認知症プロフェッショナル医養成プラン(認プロ)」と本学会のジョイント企画として、アルツハイマー病の国際シンポジウムと認知症の市民公開講座を同時開催いたしました。
 私はこれまで、アミロイドをキーワードに、アルツハイマー病、非アルツハイマー型認知症(神経原線維変化型老年期認知症、レビー小体型認知症)、脳アミロイドアンギオパチー、プリオン病などの認知症疾患を研究してまいりましたが、会長講演では、2000年に金沢大学に赴任した後に始めた一連の研究「認知症地域コホート研究を起点とする予防・治療法の開発」について講演いたしました。プレナリーレクチャーやシンポジウムなどのプログラムでは、外国からの招待講演者10名を含め、認知症の疫学、臨床、ケア、施策に至るまで、最新の知見が紹介され活発な討論が行われました。2017年、私を含む国際コンソーシアムはレビー小体型認知症の診断基準・治療ガイドラインを12年ぶりに改定しましたが、ホットトピックとしてコンソーシアムの中心であるIan McKeith教授(Newcastle大学)にプレナリーでご講演いただきました。
 また、2017年9月29日〜30日に第5回日本難病医療ネットワーク学会(会長:山田正仁、副会長:駒井清暢)を金沢で開催いたしました。全国から難病医療に携わる約500名の方々のご参加をいただきました。併せて、ご支援を感謝いたします。

 この年報第18号を皆様方に御高覧いただき、今後も一層の御指導を賜わりますことができましたら誠に幸いに存じます。

2018年3月
山田正仁

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