金沢大学脳神経内科

年報

第13号(2013年3月)

教室年報・巻頭言

年報第13号の刊行にあたって

2012年(平成24年)の教室の記録を年報第13号としてまとめました。教室の診療、教育、研究活動に際し、学内、関連施設、国内外から多くのご支援、ご指導をいただきました。この場をお借りして心より感謝申し上げます。

 2012年は、2011年3月の東日本大震災が落とす影の中で、『復興』と『脱原発』をキーワードにして迎えた1年でした。

 2012年8月、韓国の李明博大統領が竹島に、香港の活動家らが尖閣諸島に上陸し、領有権を巡る隣国との摩擦が一気に顕在化しました。日本政府は9月に尖閣諸島を国有化、その後、中国各地では反日デモが相次ぎ、日系デパートなどに対する破壊行為が公然と行われました。
 また、夏にはロンドン・オリンピックが開催され、日本は史上最多のメダルを獲得しました。
 10月、山中伸弥・京大教授がiPS細胞の研究でノーベル医学生理学賞を受賞することが決まりました。
 12月、師走の衆議院選挙となり、新党が乱立、結局、自民党が圧勝し、民主党は惨敗、第2次安部内閣が発足しました。民主党政権から3年ぶりに自公連立政権に戻りました。
 もう1つ、5月22日、ちょうど日本神経学会学術大会が東京で開催されている時に、東京スカイツリーが開業し、オープン前から大勢の人が行列をつくりました。夏、隅田川を臨む浅草の料理屋さんで会食をする機会がありましたが、向島に立つスカイツリーの姿が川にうかぶ屋形船などに妙にマッチして風景になじんで見えました。スカイツリーも、きっとそのうちに、私達にとっておなじみの東京タワーのような存在になっていくのでしょう。

 2012年は金沢大学医学部が創立150周年の節目を迎えた年でありましたが、当教室は開設30周年を迎えました。5月には教室開設30周年記念誌を発刊させていただきました。改めて高守正治名誉教授を始めとする教室創成期の方々に感謝いたしますと共に、当教室の発展を多方面からご支援、ご指導くださった学内外の関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

 この年報にありますように、2012年、当教室ではさまざまな出来事があり、いくつかのプロジェクトが進行しました。その中の1つを取り上げますと、私達が能登半島の七尾市中島町で行っている認知症早期発見・予防のための地域基盤型研究(通称『なかじまプロジェクト』)がいよいよ佳境に入ってきました。このプロジェクトは、文部科学省の地域結集型研究事業/知的クラスター創成事業等の支援を受けて、認知症の早期発見と予防を目標に、2001年から計画し準備活動を行い、2006年から『もの忘れ健診』を開始し、現在に至っております。こうした研究では、地域住民の参加率により調査結果にバイアスがかかります。数年間に渡り、公民館や集会所で行う通常の脳健診のデータと、戸別訪問による健診(悉皆調査)のデータを比較した結果、通常の脳健診方式ではどのようなバイアスがかかるのかが明らかになり、地域における認知機能低下・認知症の実態がほぼ判明しました。中島町は現在の高齢化率が35%で、わが国の20年後の姿を示すモデルです。『なかじまプロジェクト』は、私達神経内科グループばかりでなく、公衆衛生、リハビリ、PET、MEG他の学内外の多数の研究施設や専門家グループとの共同研究として、地元自治体や医師会等のご支援のもとに、中島町の皆さんと一体になって実施されています(写真)。このプロジェクトを通じて、認知症早期発見・予測システムを確立し、認知症、特にアルツハイマー病が発症予防できることを示し、今世紀半ばに迎える高齢化率40%を超える超高齢化社会に貢献したいと思います。

 この年報第13号を皆様方に御高覧いただき、今後も一層の御指導を賜わりますことができましたら誠に幸いに存じます。

2013年2月
山田正仁

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