金沢大学脳神経内科

研究・業績

異常蛋白凝集に関する研究

研究紹介

 現代日本において、認知症は最も大きな問題の一つとなっています。認知症を引き起こす疾患の中でアルツハイマー病が最も患者数の多い疾患です。その発症機序について、アミロイド前駆蛋白(Amyloid precursor protein)からのアミロイドβ蛋白(Amyloid β-protein :Aβ)の産生、さらには凝集、沈着に至る過程がアルツハイマー病変形成の最上流に位置するというアミロイドカスケード仮説がもっとも広く受け入れられています。当初はその凝集体が最も毒性が高いと考えられていましたが、近年、数個~数十個が重合した状態(オリゴマー)が最も毒性が高いと考えられています。

図:アミロイドのカスケード仮説

 このアミロイドβ蛋白の産生からオリゴマーの状態を経て凝集していく課程を観察し、それを修飾する物質を発見することが、アルツマイマー病の疾患の成り立ちを理解し、その治療を確立する方法として重要だと考え、研究を行って参りました。

 さらには、認知症性疾患でアルツハイマー病に次いで重要であるレビー小体型認知症(DLB)についても、レビー小体の構成要素であるαシヌクレイン蛋白の凝集がその病態に大きく関与していると考えられており、その評価も行っております。

・アミロイドβ蛋白凝集系に対するポリフェノールをはじめとする各種薬剤の効果

 疫学的報告では、ポリフェノールを中心とした有機化合物がアルツハイマー病を予防していると報告されています。我々はin vitroの実験系においても、それらの化合物がアミロイドβ蛋白の線維の形成・凝集を抑制し、形成された凝集体を不安定化することを明らかにしました(J Neurochem,2002; Biol Psychiatry, 2002; J Neurochem, 2003他)。また、Photo induced cross-linking ofunmodified proteins(PICUP)法などを用いてワイン関連ポリフェノールが、アミロイドβ蛋白のオリゴマー形成を抑制し、細胞及びシナプス毒性を軽減させることを示しました(J Biol Chem, 2008; J BiolChem, 2012)。さらに、アルツハイマー病モデルマウスを用いてワイン関連ポリフェノールが、脳内のアミロイド沈着だけでなく、オリゴマーも減少させ、さらに高次脳機能障害も改善することを明らかにしました( J Neurosci, 2008; Am J Pathol, 2009 他)。また、ビタミンAなどがアミロイドβのオリゴマー化を抑制していることを示しました(J Alzheimer Dis, 2013)。

図:アミロイドβ線維(電子顕微鏡)

・アミロイドβ蛋白のオリゴマーの毒性についての評価

 PICUP法を用いることにより、アミロイドβ蛋白の可溶性オリゴマーを安定化した状態で分離して抽出し観察することに成功しました。dimer、trimer、tetramerがmonomerと比較して、β-sheet構造の割合が増加し、細胞毒性も増加すること、さらには、毒性の最小単位がdimerであることを示しました(ProcNatl Acad Sci USA, 2009)。また、England型やTottori型のアミロイドβ蛋白は、wild typeに比較してオリゴマー形成が促進され、それに伴いβ-sheet構造の割合や細胞毒性も増加することを明らかにしました(J Biol Chem, 2010)。

・ヒト脳脊髄液のアミロイドオリゴマー化から凝集への効果

 当教室では、臨床から基礎研究をつなぐため、ヒト脳脊髄液を用いた検討も行っています。 アルツハイマー病患者および非アルツハイマー病の方の脳脊髄液及び血漿の凝集体形成に及ぼす影響について解析を行いました。髄液や血漿での線維形成反応はいずれの生体試料においても抑制されますが、アルツハイマー患者の生体試料で抑制効果が弱いことを示しました(Neurobiol Dis, 2005;Exp Neurol, 2006)。さらに脳脊髄液のオリゴマー形成に及ぼす影響に関して解析を行い、アルツハイマー病患者の脳脊髄液は、アルツハイマー病ではない方の脳脊髄液と比較して、Aβオリゴマー形成を促進する環境を有していることを報告しました(J Alzheimer Dis, 2010)。


図: PICUP法でのアミロイドβ蛋白のオリゴマーの観察(銀染色)
 Lane 2-7にかけて、脳脊髄液濃度を上げるとオリゴマー形成量が少なくなります。

・αシヌクレインについて

 α -シヌクレイン蛋白(αS)凝集の研究試験管内α-シヌクレイン線維(fαS)形成・分解機構解明のための基本モデルを開発・確立し、ワイン関連ポリフェノールやクルクミン、ローズマリー酸が程度の差こそあれ、繊維形成を抑制し、さらに既存の繊維も不安定化させることを明らかにしました(J Neurochem, 2006、Neurobiol Dis, 2007他)。さらに、レビー小体病の患者の脳脊髄液はnon-CNS disease患者に比較して線維形成を促進することを明らかにしました(Exp Neurol, 2007)。

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