第16号(2016年3月)
教室年報・巻頭言
年報第16号の刊行にあたって
2015年(平成27年)の当教室の診療、教育、研究活動の記録を年報第16号としてまとめました。学内、関連施設、国内外から多くのご支援、ご指導をいただきました。心より感謝申し上げます。
2015年は世界各地でテロが相次ぎました。11月13日金曜日の夜、パリで、競技場、劇場、レストランなどを同時に狙ったテロが発生し、死者は130人、負傷者は約400人に達し、イスラム過激派組織「イスラム国」の犯行と断定されました。非常事態が宣言され「イスラム国」への空爆が強化されました。内戦やテロが続くシリアなどから難民がヨーロッパに押し寄せました。1月、「イスラム国」は日本人男性2人を人質にとり、日本政府に2億ドルを要求し、次いで2人を殺害したとする映像を公開しました。そうした国際状況を背景に、9月、集団的自衛権の限定的な行使を認める安全保障関連法が成立しました。国会議事堂周辺では反対デモが連日行われました。
明るい話題もありました。10月、2015年のノーベル生理学・医学賞に大村智・北里大特別栄誉教授が、ノーベル物理学賞に梶田隆章・東京大宇宙線研究所長が選ばれました。大村先生は土壌中の微生物から抗寄生虫薬「イベルメクチン」のもとになる物質を発見し、発展途上国の多くの人を失明から救いました。
3月14日、北陸新幹線が開業しました。金沢―東京間は最短2時間20分台で結ばれました。それに伴い北陸各地に観光客が押し寄せました。金沢―長野間はわずか1時間です。長野の善光寺はちょうど7年に1度の御開帳で、5月のゴールデンウィークに家内と参詣しました。ご本尊と綱で結ばれ、触れることで御利益があるとされる回向柱に参拝するための行列ができ、2時間半待ちという大混雑でした。回向柱に触れることは諦めました。
この年報にありますように、2015年、当教室ではさまざまな出来事がありました。その1つは、7月に小野賢二郎・講師が昭和大学神経内科に教授として赴任したことです。当教室は1982年に初代教授の高守正治先生が着任された時に始まり、2000年からは私が担当させていただいております。その歴史で当教室出身者が神経内科教授に就任したのは初めてのことです。私の着任直後に彼は大学院に入り、私が専門とするアミロイド・認知症をテーマにしました。21世紀半ばの超高齢社会における神経疾患の診療・研究・教育を担う若手が次々と育っていくことを期待しております。
2015年、当教室は2つの学会を金沢で開催しました。9月4日~5日、アジア太平洋プリオンシンポジウム2015(APPS
2015 in
Kanazawa)を開催しました。この国際シンポジウムは公益財団法人・難病医学研究財団の平成27年度公募事業として採択されたものです。わが国を始め韓国、中国などのアジアの国々、オーストラリア、アメリカ、英国から多数の研究者にご参加いただきました。本シンポジウムでは、エジンバラ大学のRobert Will教授に変異型Creutzfeldt-Jakob病の最新情報について特別講演をしていただき、現在、英国では人口100万あたり約500人にBSEプリオンが潜伏感染しており、輸血や血液製剤等による2次感染が監視されていることなどが報告されました。また、世界のプリオン病の実態、異常プリオンタンパクの増幅についてシンポジウムをもち、さまざまな最新のプリオン研究の成果が発表され、活発な討論の場となりました。
12月11日~12日、第20回日本神経精神医学会を開催しました。この学会は神経内科と精神科の境界領域を扱う学会です。第20回の節目となる本学会では『認知症の神経精神症状のメカニズムと治療の進歩』をテーマに掲げました。アルツハイマー病やレビー小体型認知症などの認知症関係の企画ばかりでなく、『精神疾患と誤りやすい脳炎・脳症』、『器質的脳疾患における幻覚と妄想』といったシンポジウムや“Neuropsychiatric
CPC”と称する臨床病理カンファレンスを持ちました。さらに、2日目の午後には、私がプロジェクトリーダーをしている文部科学省の事業(課題解決型高度医療人材養成プログラム)の『北陸認知症プロフェッショナル医養成プラン(認プロ)』とのジョイントシンポジウム『認知症診療のピットフォールと最近の進歩』を開催しました。講演者は、神経内科医と精神科医が半々で、神経内科・精神科のどちらの立場からみても非常に有意義で勉強になる内容のご講演をいただき、討論も大変盛り上がりました。この場をお借りしまして、関係各位のご支援に心より感謝いたします。
この年報第16号を皆様方に御高覧いただき、今後も一層の御指導を賜わりますことができましたら誠に幸いに存じます。
2016年3月
山田正仁