異なるAβ株による情報を持つAβ seedsを外部から接種した場合のAβ沈着部位(脳実質・脳血管)について検討した研究の成果がActa Neuropathologica Communications誌に掲載されました。
Alzheimer病(Alzheimer’s disease: AD)の代表的な脳病理変化の1つにアミロイドβ蛋白質(amyloid β protein: Aβ)の沈着があります。Aβは脳実質および脳血管に沈着し、多くの症例ではその両方に沈着していますが、脳実質にのみ沈着し脳血管にほとんどAβ沈着を認めない症例、あるいは逆に脳血管のみで脳実質にほとんどAβ沈着しない症例が存在し、なぜAβが脳実質や脳血管に沈着するかは分かっていません。最近、多くの研究グループが脳Aβ病理変化は、プリオン病の異常プリオン蛋白と同様に個体間を伝播することを報告しており、我々も実験動物やヒトでのAβ病理個体間伝播を報告してきました(Hamaguchi T, et al. Acta Neuropathologica 2012, Hamaguchi T, et al. Acta Neuropathol 2016, Hamaguchi T, et al. J Neurol Sci 2019)。プリオン病には異なる病理学的、生化学的特徴を持つ異常プリオン蛋白が存在し、個体間伝播した場合にその異常プリオン蛋白の性質が残るという特徴があり、株(strain)と呼ばれています。また、最近、Aβにも株があるという研究結果が複数報告されています。今回、我々はAβの脳実質・脳血管への沈着は、Aβ株の違いによって起こるという仮説を持ち、それを実証するために異なるAβ病理(Aβ沈着が1.脳実質のみ、2.脳血管のみ、3.脳実質と脳血管、4.Aβ沈着なし)を持つヒト剖検脳ホモジネートをADマウスモデル脳に接種してマウス脳の病理・生化学的変化を解析しましたが、仮説に反してヒト剖検脳ホモジネートを接種したADマウスモデル脳はそれぞれのグループで明らかな差を認めず、より脳血管に沈着しやすいということが分かりました。このことは、ヒトにおいて脳外科手術で脳Aβ病理が個体間伝播した場合には脳血管への沈着が起こりやすいという研究結果(Yamada M, Hamaguchi T, et al. Prog Mol Biol Transl Sci 2019)とも合致する結果で興味深いものと考えています。
Hamaguchi T, Kim JH, Hasegawa A, Goto R, Sakai K, Ono K, Itoh Y, Yamada M.
Acta Neuropathologica Communications 2021; 9: 151