金沢大学脳神経内科

研究・業績

異常蛋白の個体間伝播に関する研究

研究紹介

Creutzfeld-Jakob病(Creutzfeldt-Jakob disease: CJD)に代表されるプリオン病は、脳における海綿状変化と異常プリオン蛋白蓄積を特徴とする神経変性疾患です。ウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy: BSE)からヒトへ伝播したと考えられる変異型CJDやヒト乾燥屍体硬膜移植や成長ホルモン療法、脳外科手術等によって伝播したと考えられる医原性CJDのように、プリオン病は同種間あるいは異種間で伝播しうるという特徴を有し、それらはしばしば大きな社会問題となっています。

近年、Alzheimer病(Alzheimer’s disease: AD)、Parkinson病 (Parkinson’s disease: PD)/Lewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies: DLB)、ハンチントン舞踏病(Huntington’s disease)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)といった他の神経変性疾患においても、プリオン病と同様にある特定の蛋白の構造異常あるいはフォールディング異常によって、蛋白がミスフォールディング、即ち立体構造(コンフォメーション)を変化させて凝集することによって疾患が引き起こされると考えられており(protein conformational disorders)、これらの神経変性疾患も、プリオン病と同様に原因となる異常蛋白の伝播が1個体の中枢神経系内のみならず、個体間でも可能であるという実験的報告が増加してきています。

我々の教室では、これらの神経変性疾患の中でも特に、ADに関連するアミロイドβ蛋白(amyloid β protein: Aβ)の脳への沈着の個体間伝播に着目し、研究グループのメンバーは、ドイツの研究室でモデルマウスを用いた実験を行い、脳へのAβ沈着の個体間伝播はレシピエントマウスの月齢の違いで差は認めず、脳にAβのseedsが存在した時間に依存してAβ沈着が脳全体に拡がることを報告しました(Hamaguchi T, et al. Acta Neuropathol 2012)。

  • ・異なる年齢や潜伏期間による脳βアミロイドーシス伝播の違い。
  • ・Group 1とGroup 3は脳ホモジネートを3ヶ月齢で脳へ注入し、Group 2は9ヶ月齢にて注入した。
  • ・Group 1とGroup 2は6ヶ月後に、Group 3は12ヶ月後に評価を行った。
  • ・Wtマウス脳ホモジネートを脳に注入した群では、何れのGroupでも脳へのAβ沈着を認めなかった(A, B)。
  • ・Tgマウス脳ホモジネートを脳に注入した群では、Group 1とGroup 2は脳へのAβ沈着の程度に差は無かったが、Group 3では他の群と比較して有意にAβ沈着の程度が多かった(A, B)。
  • ・伝播した脳βアミロイドーシスの個体内での広がり。
  • ・A 脳ホモジネートを3ヶ月齢で脳へ注入し、12ヶ月後に評価した(Group 3 Tg)。
  • ・両側海馬とその上層の皮質に少量(3.5ul)の脳ホモジネートを注入したところ、12ヶ月後には注入した部位のみだけでなく、海馬および大脳皮質全体にAβ沈着が広がった。
  • ・B 前頭部より脳を25umで冠状断に切り、12スライス毎にAβ沈着の程度を評価した。
  • ・Wtマウスの脳を注入したマウスではほとんどAβ沈着を認めなかった。
  • ・Tgマウス脳を注入した群では、6ヶ月後に評価した群では海馬とその近傍にAβ沈着が限局しているが(Group 1 Tg、Group 2 Tg)、12ヶ月後に評価した群ではAβ沈着が脳全体に広がっていた(Group 3 Tg)。

さらに、わが国の硬膜移植後CJD剖検脳を用いた検討でも、硬膜移植後CJD症例は孤発性CJD症例に比べて髄膜CAAや軟膜下Aβ沈着の程度が高度で(図3)、その程度は硬膜移植から死亡までの期間と正の相関があり、移植硬膜が脳の表面に置かれたことによって脳の表面からAβ沈着が広がったと推測できることを報告しました(Hamaguchi T, et al. Acta Neuropathol 2016)。

また、乳児期に脳外科手術を受けた症例で、30歳時にAβによる脳アミロイドアンギオパチーに伴う脳出血を発症した2症例を報告し、脳外科手術に伴う脳Aβアミロイドーシスの個体間伝播の可能性を指摘する(Hamaguchi T, et al. J Neurol Sci 2019)など、現在も活発に研究活動を行なっています。現在進行中の試験管内の実験や動物実験も複数あり、臨床的に得られた知見から仮説を立てて、基礎研究で証明していくことを目標に研究を進めています。

図3.

  • ・硬膜移植後Creutzfeldt-Jakob病(CJD)と孤発性CJDの脳βアミロイドーシス。
  • ・A 硬膜移植後CJD、死亡時39歳、男性、脳実質にアミロイドβ蛋白(amyloid β protein: Aβ)沈着を認める。
  • ・B 孤発性CJD、死亡時35歳、男性、Aβ沈着を認めない。
  • ・C 硬膜移植後CJD(16例)と孤発性CJD(21例)の脳βアミロイドーシスの程度の比較。
  • ・軟膜下Aβ沈着スコア、全脳アミロイドアンギオパチースコア、髄膜脳アミロイドアンギオパチースコアは、孤発性CJDと比較して硬膜移植後CJDで有意に高かった。
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