教室案内

第11号(2010年3月)

年報第11号の刊行にあたって



 2010年(平成22年)の教室の記録を年報第11号としてまとめました。2010年の教室の診療、教育、研究活動は、学内、関連施設、国内外の共同研究者など、数多くの方々のご支援をいただいて行われました。この場をお借りいたしまして、厚く御礼申し上げます。

 2010年夏、わが国は100年に1度という猛暑となり、全国の医療機関には多数の熱中症患者が救急搬送されました。国内情勢では、長引く不況の中、6月に鳩山首相が退陣し菅副総理が後継しましたが、7月の参院選で民主党は大敗し、政権は迷走を続けました。9月、尖閣諸島沖で中国漁船が海保巡視船と衝突し、その後、海上保安官が撮影ビデオをインターネットに流出させるという事件があり、一連の政府の対応は世論の厳しい批判にさらされました。また、11月には北朝鮮が国境線に近い韓国の島を砲撃し死傷者が出て、東アジア情勢は一挙に緊張しました。
 一方、明るいニュースも数多くありました。6月、わが国の小惑星探査機「はやぶさ」が目的地の小惑星「イトカワ」で採取したサンプルをもって帰還しました。2003年に出発して以来、7年間、60億キロに及ぶ宇宙の旅を終えて、大気圏に突入し火だるまになって地球に戻ってきた姿に感動しました。月より遠い天体に着陸し試料を持ち帰ることに成功したのは人類初とのことです。1970年の大阪の万博で「月の石」をアメリカ館の大混雑の中でみたことを思い出します。8月、チリ鉱山の落盤事故で作業員33人が地下700メートルの坑内に閉じ込められましたが、10月全員が無事救出されました。また、日本人研究者の根岸英一、鈴木 章の両氏がクロスカップリング反応の研究でノーベル化学賞を受賞しました。

 この年報にありますように、2010年、教室ではさまざまな出来事がありました。研究活動では、当教室に事務局を設置して行った調査研究として、文部科学省・地域イノベーションクラスタープログラムの助成による『なかじまプロジェクト』(石川県七尾市中島町における脳健診・認知症予防プロジェクト)、厚生労働省・難治性疾患克服研究事業・アミロイドーシスに関する調査研究班、同・クロイツフェルト・ヤコブ病サーベイランス委員会、精神神経科学振興財団助成による『レビー小体型認知症診断研究プロジェクト』などがありました。
 その中で、アミロイドーシスに関する調査研究班の活動として、『アミロイドーシス診療ガイドライン2010』を12月に発行いたしました。ガイドライン作成の目的は、

全身性アミロイドーシスや脳アミロイドーシス(アルツハイマー病や脳アミロイドアンギオパチー)の診断と治療について、一般医師向けにガイドラインを提供し診療水準の向上をはかることにあります。アミロイドーシス調査研究班は1975年に山村雄一教授(大阪大学)を初代班長として始まりましたが、診療ガイドラインを出すのは今回初めてのことです。かつては治療法がなかった本症に対し、現在、根本的な治療効果が期待される“抗アミロイド療法”が次々と可能になってきていることがその背景にあります。
 2010年は日本神経学会や関係学会によるさまざまな神経疾患のガイドラインが改訂・発刊された年でもあります。私も神経学会等による認知症治療ガイドライン作成に関わりましたが、私達自身が研究班によるガイドラインの作成作業全体を運営させていただいたのは大変貴重な経験でした。ガイドラインの作成にあたっては、2008年にワークショップを開催し基本方針を策定し、編集委員会による原案作成と討議、研究班全体による改訂を繰り返して暫定版を作成、暫定版について研究班外からパブリックコメントをいただき最終改訂を行い、2010年末に発刊および研究班ホームページ(http://amyloid.umin.jp/)上に公開するに至ったものです。その間、関係者の利益相反の問題、ガイドラインにおける検査や治療の保険外適応等の取り扱いの問題、パブリックコメントの求め方などについて、当局や神経学会事務局ほかからご指導、ご教示をいただきました。関係者の方々に心より感謝申し上げます。
 ガイドラインの普及により、より多くの患者さんが早期に診断され、速やかに最適な診療が受けられるようになることが期待されます。先端的な学術研究などと共に、こうした活動を通じて社会に貢献することも私達の重要な使命であることを改めて認識いたしました。

 この年報第11号を皆様方に御高覧いただき、今後も一層の御指導を賜わりますことができましたら誠に幸いに存じます。

2011年3月
山田正仁
 
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