教室案内

第9号(2009年3月)

年報第9号の刊行にあたって



 2008年(平成20年)の教室の記録を年報第9号としてまとめました。教室の診療、教育、研究活動は、病院内、学内の方々、国内外の共同研究者の方々、関連施設の方々、知的クラスター創成事業・「なかじまプロジェクト」(七尾市中島町における脳健診および認知症予防プロジェクト)関係の地域や行政の方々、厚生労働省・アミロイドーシス調査研究班やクロイツフェルト・ヤコブ病サーベイランス委員会等の研究班・委員会活動に関わる多くの方々等の支援を受けており、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

 2008年、米国発の金融危機を端緒とする不況が世界中に波及し、わが国でも経済の失速や失職者急増が大きなニュースとなりました。政治面では、米大統領選でオバマ氏が勝利し米国初の黒人大統領誕生決定という大きな出来事があり、一方、わが国では首相がまた変わり、福田首相が突然退陣、麻生首相が後継しました。また、中国四川大地震、中国製冷凍ギョーザによる中毒事件、秋葉原での無差別7人殺害事件など、国内外で事件が相次ぎました。2008年を象徴する一字として「変」という漢字が選ばれていました。「大変な事件が多かった」、「社会の変化が明らかになった」、「変な社会になってしまった」など、社会が変質し時代の変節点にあることを多くの人が実感した年であったのかもしれません。一方で、ノーベル物理学賞を南部、小林、益川氏が、化学賞を下村氏が受賞するという明るいニュースもありました。研究上なじみのあるGFP蛋白質は下村先生が初めて単離・精製したものであることを知りました。

 医療面では、前年に引き続き「医師不足」・「医療崩壊」がキーワードとして瀕回にメディアに登場しました。若手医師が大都会へ集中し(地域間格差)、救急や重症患者が多い科を専門とすることを避けようとする傾向(診療科間格差)、地域中核病院で過重な責務を負う中堅医師が退職していってしまう現象(立ち去り現象)などが相変わらず話題になりました。これらの現象は新臨床研修制度開始と同時期から明瞭になりました。医学部定員増の方針が出されましたが、実効性がみえる改善策が乏しいままに経過しました。大学医学部/大学病院は、「高度医療」、「先端医学研究」、「医療人育成」の3つの使命を果たすべく努力をしていますが、特に地方大学にめだつ若手医師不足、とりわけ臨床と共に研究にも志を有する若手医師の減少傾向がみられ、次代を担う人材育成という点で先行きが危惧されます。

 2008年の当教室のトピックスの1つは、当地域における神経疾患患者さんの病理解剖(剖検)システムが実際に動き始めたことです。不幸にして患者さんが亡くなられた場合、御家族の御許可のもとに剖検させていただき、私達の診断や治療が適切であったか否かを検証し、さらに将来の患者さんのために研究に取り組むことが求められます。
大学病院での剖検の機会は非常に少数に限られます。その性格上、大学病院で精査、治療開始後、関連病院等に転院されて診療が継続される場合が多いからです。しかし、これまで、関連病院等での長期経過後に剖検までフォローさせていただくことができたケースは極めて稀で、地域全体でみると剖検がほとんど出来ていなかったことが大きな問題で、それを可能にする体制を構築することが私達の重要な課題となっていました。
そこで、当科の関連病院で、当地域の神経難病患者さんを長期に渡り診療している主要施設である国立病院機構・医王病院において剖検体制を整備すべく、ご協力をお願いしました。医王病院は大学から車で15分ほどの金沢市北部に位置し、駒井清暢・副院長(前・当科助教授/現・当科臨床教授)をチーフに、神経難病を中心に神経疾患の診療(神経内科約150ベッド+外来・在宅診療)を行っており、大学で診断や初期治療を行った多数の患者さんを長期に渡り診療していただいています。2007年に医王病院に臨床研究部(院内標榜)を設置していただき、当科から石田千穂講師(現・当科臨床准教授/病理解剖資格認定医/日本神経病理学会評議員)が部長として赴任しました。医王病院には病理医はおりませんので、石田部長を中心に神経内科が剖検を行い、当科の研究室で脳標本作成や特殊検索を行って神経系の病理を診断し、また、一般臓器の病理診断は金沢医療センター病理・川島先生に御協力をいただいています。2008年からは、医王病院でCPC(臨床病理検討会)を定期的に行い、CPCには当教室からは全医局員が、関連施設からも神経内科医が参加して活発な討論を行っています。

 2008年の剖検実績をみると、金沢大学病院神経内科は剖検3例(死亡数自体が3名と少なく剖検率100%)、医王病院神経内科は剖検16例(死亡数31名)で、合計すると年間20名程度の患者さんの神経病理を検索させていただいていることになります。剖検の充実は、当地域における神経疾患診療水準の向上、さらに難病の病因解明・治療法開発研究推進の基盤となるものです。また、若手医師が神経内科専門医をめざす後期研修において、神経病理の基本をきちんと研鑽することは、将来どのようなキャリアをめざす場合でも必要なプロセスと考えております。私は、金沢大学赴任前、東京の浴風会病院で脳病理をみさせていただいておりましたが、また、金沢でも神経・筋生検ばかりでなく脳標本を定期的にみる機会を持てるようになり、大変ありがたく思っております。

 この年報第9号を皆様方に御高覧いただき、一層の御指導を賜わりますことができましたら誠に幸いに存じます。

2009年2月
山田正仁
 
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