教室案内

第7号(2007年3月)

年報第7号の刊行にあたって



 2006年(平成18年)の教室の記録を年報第7号としてまとめました。

 2006年、世界では、イラク戦争開戦後3年が経過しましたが、テロはやむことがなく、治安回復の展望はみえません。日本海をはさんで私達と向き合っている北朝鮮は、弾道ミサイルを日本海に向けて発射し、核実験を行って世界を震撼させました。わが国では、全国各地で“いじめ自殺“が相次ぎ、いじめの多発が大きな問題になりました。
 私達が関わる医療、保健面でも、診療報酬改定、腎移植にからむ臓器売買・病気腎移植など、いろいろな話題がありました。新しい医師研修制度の開始後3年が経過し、若手医師の大都会指向(地方離れ)、大学離れの傾向が明確になり、また、医師が自分自身のQOLの比較的よい専門科や職場を選ぶ傾向、とりもなおさず、QOLの悪いと考えられている科や施設における深刻な医師不足が問題になり、しばしばメディアにも取り上げられました。

 昨年、高齢化、少子化ともに、わが国が世界一であることが発表されました。国勢調査によると、わが国の65歳以上の高齢者の割合は21.0%、15歳未満の年少者の割合は13.6%であり、高齢化率は世界最高、年少者率は世界最低とのことです。さらに、新たな人口推計によると、少子高齢化が人口減少とともに加速し、約50年後の2055年には、人口8900万人で、65歳以上の高齢者人口は現在の倍 の40.5%になると推定されています。先進諸国の中で高齢化の先頭を走っているわが国は、未曾有の超高齢化社会に対応できる新たなシステムを構築していくべき立場にあり、それには、保健、医療、医学などの私達の担当する分野が含まれます。
 私達の北陸地域は、わが国の中でも高齢化がとりわけ進んだ地域です。2001年の金沢大学医学部の大学院重点化のキーワードは『老化(高齢化社会)』であり、『脳医科学系』は『脳老化の解明とその防止』を大目標として掲げ、私達の神経内科はneurologyに加えbrain agingにもフィールドを拡げ、以来、『脳老化・神経病態学分野』として活動を続けてきました。私達の目標である『脳老化関連疾患の制御法開発』はニーズがいよいよ高まり、社会から大きな貢献を求められているものと強く感じております。

 本年報をみながら、2006年の私達の教室の診療、教育、研究の状況を振り返ってみますと、教室の活動は、教官、医員、大学院生、臨床心理士、検査技師、保健師、事務職員の方々、院内や学内の方々、学外の共同研究者の方々、診療や学生教育を助けてくださった関連病院の方々、当科研究室に他から研究にきてくださっている大学院生など、多くの方々のご協力によって支えられており、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

 私達の教室の2006年のトピックスの一つは、当地域の高齢化モデル地区(石川県七尾市中島町)を対象に、認知症等の脳老化関連疾患の早期発見や予防を目的とする脳健診プロジェクト(『なかじまプロジェクト』)がスタートしたことです。これは、神経内科医、保健師、臨床心理師、看護師等からなるチームが、地域の高齢者の脳の健診を行い、その中で有用な検査技術等を開発し、さらにはアルツハイマー病等に対する予防的介入を行うプロジェクトです(写真)。このプロジェクトは、文部科学省・知的クラスター創成事業の助成を受け、地元自治体、医師会、医療機関等のご支援をいただき、検査等の技術開発を行う当地域の先端的な研究グループ(北陸先端大、金沢工大等)と共同研究体制を組み、数年の準備や啓蒙期間を経て開始できたもので、関係各位に厚く御礼申し上げます。この中島町は、仲代達矢さんが主宰する無名塾の活動拠点となっている町であり、2007年3月には、その中心となっている能登演劇堂で、認知症の早期発見や予防をテーマに、地元の演劇集団による創作劇や講演会を計画しており、どのような催しになるか、大変楽しみにしています。
 この『なかじまプロジェクト』の以前から、私達は石川県羽咋(はくい)市で地域の住民を対象にPETによる脳研究プロジェクトを行っております(先端医学薬学研究センターとの共同研究)。従いまして、当地域では、『なかじまプロジェクト』と『はくいPETプロジェクト』の2つの地域基盤型プロジェクトが進行していることになります。これらのプロジェクトを一層充実させるためには、保健、医療、医学、検査計測系技術はもちろん、心理、リハビリ、栄養等の幅広い関連領域からのアプローチが必要であり、関心のある方々の御参加を歓迎いたします。

 私達は神経疾患の予防や治療を通じて、社会に貢献し患者さんの幸福の一助となることができる神経内科をめざし、一層努力していきたいと思います。この年報第7号を皆様方に御高覧いただき、一層の御指導を賜わりますことができましたら誠に幸いに存じます。

平成19(2007)年3月
山田正仁
 
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