金沢大学脳神経内科

年報

第17号(2017年3月)

教室年報・巻頭言

年報第17号の刊行にあたって

2016年(平成28年)の当教室の診療、教育、研究活動の記録を年報第17号としてまとめました。学内、関連施設、国内外から多くのご支援、ご指導をいただきました。心より感謝申し上げます。

 2016年、いろいろな出来事がありました。世界をみると、11月の米大統領選で、実業家で共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン前国務長官を破り当選しました。「メキシコとの間に壁を築く」といった、従来の米国の在り方とは真逆の過激な言動で注目を集めたトランプ氏が当選したことで、米国の現状に不満を抱く国民がいかに多いかを実感しました。また、英国における6月の国民投票で、英国民は欧州連合(EU)離脱を選択しました。各国が孤立の方向に動き、世界が衰退に向かうことがないよう祈るばかりです。
 国内では、4月14日、16日、熊本で大きな地震がありました。地震による直接死は50人、関連死は110人以上に及びました。さらに多数の負傷者に加え、建物の倒壊などで、避難所で長期間の生活された方も多く、心よりお見舞い申し上げます。9月に学会で熊本市を訪れた際に、熊本城の石垣が多数の箇所で崩落している様子をみて、地震の爪痕の大きさを実感しました。7月、神奈川県相模原市の障害者施設に元職員の男が刃物をもって侵入し、入所者19名を刺殺するという信じがたい事件が起こりました。人間の尊厳や生存の意味についての強い差別意識に基づく、残忍かつ冷徹な犯行は、社会に対する挑戦であり、医療・医学に関わる私たちに特に大きな衝撃を与えました。
 明るい話題では、10月、2016年のノーベル生理学・医学賞に、オートファジーの研究でご高名な大隅良典・東京工業大栄誉教授が選ばれました。生理学・医学賞は、2015年の大村 智・北里大特別栄誉教授から連続の受賞でした。

 2016年、当教室は3つの学会を開催いたしました。8月6日、金沢都ホテルにおいて第7回日本脳血管・認知症学会学術大会(VAS-COG Japan 2016)を開催し、愛媛大学の堀内正嗣教授と私が共同で大会長を務めました。160名のご参加をいただきました。「心血管・代謝と認知症および脳アミロイドアンギオパチー」をメインテーマに、血管性認知障害の病態解明や治療法開発に関連したプログラムを持ちました。James Nicoll教授(Southampton大学)には「The role of the vascular system in dementia」のテーマで特別講演をいただきました。多くの一般演題の応募があり、ポスター会場はかつてないほどの盛り上がりをみせ、演者や参加者から大変好意的なご意見をいただくことができました。
 8月19日、KKRホテル東京において第4回日本アミロイドーシス研究会学術集会を開催しました。「アミロイドーシスの分子機構と新規治療への展望」をメインテーマに、各種アミロイドーシスの分子病態解明やアミロイドゲネシスを標的とした治療法開発のシンポジウム、教育講演、海外演者を含むSpecial Symposiumを持ちました。本学会は、ありとあらゆる種類のアミロイドとアミロイドーシスを扱う、わが国唯一の研究フォーラムです。さまざまな分野から約170名の参加者があり、非常に有意義な討論の場となりました。
 10月21日〜22日、金沢東急ホテルにて第21回日本神経感染症学会を開催しました。本学会は脳神経領域の感染症を専門とする学会です。本学術大会では「神経感染症の分子病態解明と治療法開発の新展開」をテーマに、基礎研究から臨床研究、症例報告まで幅広い内容を取り上げました。会長講演では「医原性クロイツフェルト・ヤコブ病におけるプリオン及びプリオン様タンパク質の伝播」と題し、硬膜移植後プリオン病における異常プリオンタンパク、アミロイドβタンパクの伝播とその機構について講演しました。理化学研究所の田中元雅博士によるプリオンに関する特別講演、4つのシンポジウム、7つの教育セミナーをもち、さらに、ホットトピックスとして、①「ジカ熱とデング熱」、②「小児の急性弛緩性脊髄炎」、③「神経変性疾患と腸内細菌叢」を取り上げました。③では、Robert Friedland教授(Louisville大学)が、パーキンソン病モデル動物の腸内にアミロイドタンパク質を産生する大腸菌がいると、末梢及び中枢神経系において病因タンパク質αシヌクレインの異常蓄積が促進されるというインパクトのあるデータを発表しました。アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患もプリオン病同様のメカニズムにより病変が伝播あるいは促進されうることが解明されつつあります。そのメカニズムを解明し新たな分子標的に対する治療法を開発することが、私達の重要な課題になっております。3つの学会の開催に際しましては、多くの方々からご指導、ご支援をいただきました。この場をお借りしまして、関係各位のご支援に心より感謝いたします。

 この年報第17号を皆様方に御高覧いただき、今後も一層の御指導を賜わりますことができましたら誠に幸いに存じます。

2017年3月
山田正仁

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